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近年「遺伝子検査」により、がんや糖尿病などの疾患の発症リスク(かかりやすさ)を調べることができるようになりました。そして疾患の発症リスクを把握し、生活習慣改善により疾患の発症を予防する動きが加速しています。
「遺伝子検査」では、特定の疾患の発症リスクを、どのように解析しているのでしょうか。
本記事では、がんをはじめとする疾患の発症リスクの解析方法について説明します。
遺伝子検査の概要
まずは、「遺伝子検査」がどのようなものかを説明します。
「遺伝子検査」とは、DNAを構成する遺伝子の「塩基(化学物質)」の配列を調べる検査で、血液や唾液を使用する検査が一般的です。
遺伝子は、親から子へ特徴を伝えるものです。DNA配列のわずかな違いが個人差につながり、髪や目の色といった外見の特徴や体質などが、両親から受け継がれます。人間には、2.5万種類以上の「遺伝子」があり、稀にそのDNA(塩基)配列に違いが発生する場合があります。
「遺伝子検査」では、特定の塩基配列に変異がないかを確認します。変異が確認された場合は、統計上の変異のレベルと比較することで、その人の体質や特定疾患の発症リスクが解析できます。
また「遺伝子検査」では、疾患の発症リスクの他に、体質や特定の薬の効きやすさも解析できます。そのため、「遺伝子検査」を実施することで、どの薬が効きやすいのかを解析して、患者に適した治療法を選択できるようになるのです。
このような遺伝子情報を活用した「ゲノム医療」は、一部保険適用が進んでおり、今後の利用拡大が期待されています。
では「遺伝子検査」から、がんや2型糖尿病などの疾患のかかりやすさをどのように解析するのでしょうか。そのイメージを紹介しましょう。
遺伝子検査に関するコンテンツはこちら:遺伝子検査とは
がんの発症リスクを、どのようにして解析する?
日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性で65.5%、女性で51.2%と、2人に1人以上(2019年国立がん研究センター「がん統計」より)だと発表されています。では遺伝子検査において、がんの発症リスクは、どのように解析するのでしょうか。
人の臓器や器官は、さまざまな細胞で構成されており、その細胞はタンパク質でできています。そして、このタンパク質を作るための設計図が「遺伝子」です。人が成長する際に、さまざまな臓器や器官の細胞が生まれては死んでゆくターンオーバーを繰り返します。そのターンオーバーの際に、「遺伝子」をコピーして新しい細胞が生まれてきますが、そのコピーの際にミスが起きる場合があるのです。そして、そのミスコピーとなった遺伝子が、がんに関係する場合があるのです。
人の細胞には約2.5万個の遺伝子があるといわれており、そのうちの20~400個程度ががんの発症に関係する遺伝子「がん関連遺伝子」だと考えられています。
そして「がん関連遺伝子」は、大きく「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」の2種類に分類されます。「がん遺伝子」は、車にたとえるならアクセルの機能を持った遺伝子で、がんを進行させる遺伝子です。一方「がん抑制遺伝子」は、車のブレーキに該当する機能を持った遺伝子です。「がん抑制遺伝子」が正常に機能していれば、遺伝子のミスコピーで変異が生じても、増殖を止めることができます。しかし、「がん抑制遺伝子」が正常に機能しないと、変異した遺伝子が増殖して、がんが進行してしまいます。
たとえば大腸がんの場合には、見た目が正常な大腸粘膜であっても、「APC」というがん抑制遺伝子に異常が生じているケースがあることが分かっています。また、「KRAS」というがん遺伝子や「TP53」というがん抑制遺伝子に異常が生じると、良性腫瘍である大腸ポリープが発生します。それらに細胞不死化酵素「テロメラーゼ」が機能することで、ポリープが悪性腫瘍化してがんを発症することが分かっています。
がんに関する遺伝子検査では、このような「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」の変異について確認し、変異の度合いを統計情報と照らし合わせることで、どの程度がんになりやすいのかを解析しているのです。
2型糖尿病のかかりやすさを、どのようにして解析する?
続いては、血管障害や心筋梗塞などのさまざまな合併症を引き起こしやすく、重症化すると足を切断するケースもあるということで恐れられている糖尿病についてです。
糖尿病は、すい臓のインスリンを分泌するβ細胞が破壊して起こる1型と、生活習慣や遺伝要素によってインスリンの分泌量の低下や、インスリン抵抗性の向上が起こる2型に分かれます。この2型糖尿病の発症に関しては、特定遺伝子の変異があると、発症しやすくなることが報告されています。この変異を「糖尿病感受性遺伝子多型」と呼び、これまでに60以上の感受性遺伝子が確認されています。
国立多目的コホート研究「JPHC研究」では、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、4,753人を対象に代表的な11ヵ所の遺伝子多型について分析を行いました。その結果、インスリン分泌に関係する「CDKAL1」「KCNQ1」などの遺伝子領域に特定の糖尿病感受性多型をもつ場合は、糖尿病のなりやすさ(オッズ比)が、「CDKAL1」では1.28倍、「KCNQ1」では1.21倍になることが分かりました。
また調査後5年間に、糖尿病を発症した人と発症しなかった人(計1,827人)を対象に、糖尿病感受性遺伝子多型を有する数で5つにグループ分けをし、糖尿病の発症リスクを比較しました。その結果、最も糖尿病感受性遺伝子多型が少ないグループに比べ、最も多いグループの糖尿病リスクは、2.34倍に上昇することが報告されています。
糖尿病に関する遺伝子検査では、このような「糖尿病感受性遺伝子多型」の数を調べることで、どの程度糖尿病になりやすいのかを解析しているのです。
脳梗塞のかかりやすさを、どのようにして解析する?
もうひとつ、日本人の死因の第4位(2021年厚生労働省『人口動態統計』)となる脳血管疾患の中から、脳梗塞のかかりやすさの解析方法を紹介しましょう。脳梗塞は、何らかの原因で脳の動脈がつまることで脳に血液が循環しなくなり、脳が壊死してしまう疾患です。症状は人によってさまざまで、片方の手足の麻痺やしびれ、呂律が回らない、言葉が出てこない、視野が欠ける、めまい、意識障害などがあります。後遺症を残すケースが多いため、要介護原因の2位(2022年厚生労働省)にもなっています。
では、脳梗塞のかかりやすさは、どのようにして解析するのでしょうか。
2019年に国立研究開発法人 国立循環器病研究センターが発表した研究結果では、もやもや病の発症リスク遺伝子とされる「RNF213」のタンパク質の4810番目「アルギニン」が、「リジン」に変わる多型(リスク変異R4810K)が脳梗塞の発症に関与していると報告されています。
出典:国立循環器病研究センター 日本人の脳梗塞の強力な感受性遺伝子が明らかに
日本人46,958名(うち脳梗塞17,752名)を対象に調査すると、上記の多型(リスク変異R4810K)保有者の場合、アテローム性血栓性梗塞のオッズ比を3.58に高めることが明らかになりました。そして、このリスク変異R4810Kは、ほぼ東アジアにしか存在しないことが知られており、日本人の2~3%がこの遺伝子を保有していると考えられるようです。
脳梗塞に関する遺伝子検査では、このような「リスク変異R4810K」を調べることで、どの程度脳梗塞になりやすいのかを解析しているのです。
遺伝子検査での疾患リスクの示し方
ここまで、どのようにして病気のかかりやすさを解析するかについて、説明してきました。では、実際の「遺伝子検査」の検査結果においては、各種疾患に対する発症リスクをどのように示しているのでしょうか。
下記が、当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の結果の一部となります。
がん、糖尿病、心筋梗塞、高血圧といった疾患に関して、一般的な人と比較してどれくらい高いのか、相対的な発症リスクを数値で確認できます。発症リスク値の算出の背景にあるのは、世界中の研究データと論文です。統計的に遺伝子の変異レベルを解析して、相対的なリスクを算出しています。
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の検査結果レポート例
当社で実施している遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」では、血管や心臓の病気など約90の疾患の発症リスクや体質がわかります。検査対象となる疾患と体質の一覧は、こちらをご覧ください。
より効果のある個人に適した投薬を行う「ゲノム医療」
このような「遺伝子検査」により、かかりやすい疾患の発症リスクを把握することができるようになりました。さらに「遺伝子検査」は、そこから先の病気の治療においても、より効果のある個人に適した投薬を行うための「ゲノム治療」への活用が進んでいます。
たとえば、がん治療の場合においては、「遺伝子検査」によって効果が出やすいと考えられる薬物を選定することができます。このように遺伝子情報を治療に活用する「ゲノム治療」は、一部保険適用が進んでいます。がん治療の投薬に関しては、脱毛や皮膚の発疹といった外見の変化に関わるものや、手足のしびれ・痛みや視力低下など日常生活行動に影響をおよぼすもの、さらに骨髄抑制や肝機能障害など重症化すると命に関わるものなどがあります。そのため、少しでも患者に適した、より効果の高い薬を使いたいのです。
すでに日本の保険診療においても、10種類以上のがんに対して、がん遺伝子を検査することで、患者さんに適した薬物治療を選択することが出来るようになりました。「遺伝子検査」の情報を活用して、患者さんごとにカスタマイズした医療が進んでいるのです。
リスクを知って、生活習慣の改善に役立てる
このように「遺伝子検査」は、特定の疾患の発症リスクを把握したり、医師が患者さんにとって適した薬を判断したりするためなどに活用されています。また、「予防対策」への活用も進んでいます。
疾患は生活習慣を改善することで、未然に防ぐことができます。
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」で発症リスクが分かる疾患は、ご自身の生活習慣の変化といった努力によって、発症リスクの低減が期待できる「多因子疾患」と呼ばれるものです。また、疾患の発症リスクだけでなく、その軽減に向けた最新の予防法をお伝えし、「生活習慣の改善」をサポートしています。
たとえば心筋梗塞の発症リスクが高く出た方であれば、動物性脂肪はできるだけ控えるなどの毎日の食事改善で発症リスクを軽減できます。糖尿病の発症リスクが高い場合は、栄養バランスを整えて、適切なカロリーを摂取するといった対策ができます。
当社の検査サービスを受検した人の約60%が、受検をきっかけに「行動を変えようと思うようになった」、半数の方が「バイタルデータを意識するようになった」と回答しています。(当社調べ)
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の検査結果レポート例
遺伝子検査で発症リスクが分かった際に、結果を受け入れて発症リスクを低減するための行動を起こしていただくことが、遺伝子検査を受検する効果と考えています。
三方よしの「スマート検診」
近年は、さまざまな疾患の治療で高額な治療費が必要となるケースが出てきています。
疾患発症の予防対策ができていれば、仮に疾患を発症したとしても早期発見・早期治療が可能となります。早期発見・早期治療ができれば、患者自身の負担が少なくてすむことが期待できますが、同時に国の社会保障予算の低減にもつながるのです。少子高齢化で超高齢化社会を迎えている我が国では、このような手法で「予防医療」を進めることも、社会保障費を低減することにつながると考えています。
当社では、健康診断の結果と遺伝子検査の結果を組み合わせ、個人に必要かつ最適な人間ドックのオプション検査をレコメンドする「スマート検診」の商用サービス化をめざしています。これが実現すると、「企業の従業員の健康増進」「企業の健康経営の推進」「医療機関の医業経営への貢献・受検者の継続受検」に寄与することが期待される、三方よしのサービスモデルとなると考えています。
NTTライフサイエンスは、「スマート検診」の商用サービス化により、疾患の予防・早期発見に導き、個人のWell-being実現に寄与していきます。
遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の詳細はこちら
オプション検査レコメンドサービス「スマート検診」の詳細はこちら
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