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コホート研究とは、ユーザーを一定条件でグループに分け、それぞれの時間経過に伴う行動の変化を分析する研究手法のことです。利用分野は幅広く、医療分野に限らず、食品や化粧品、保険や金融商品などの商品開発やマーケティングに関する分析手法としても活用されています。
ここでは、医療分野におけるコホート研究がどのようなものか、重要視されるようになった背景、具体的な活用方法などについて解説します。
NTTグループの大規模コホートデータを活用した取り組みにご興味ある方は以下よりお気軽に問い合わせください。
コホート研究とは
コホート研究とは、たとえば、医療分野においては「疾病の要因」と「発症の関連」を調べるための観察的な研究手法のひとつです。共通の特性を持つ集団を長期間継続して追跡することで、その集団からどのような疾病が発生し、またどのように健康状態が変化したかなどを観察して、各種要因との関連を明らかにしようとするものです。
コホート研究には前向き・後向きの2つのタイプがあります。
前向きコホート研究(プロスペクティブ研究)
ある時点から未来に向けてデータを収集する研究です。参加者が共通の特徴を共有している属性でコホート(集団)を形成し、その後の疾病発生などの様子を観察します。たとえば、特定のグループから喫煙者と非喫煙者を選び、将来の健康状態を追跡するといったアプローチの手法です。
後向きコホート研究(レトロスペクティブ研究)
過去の実績データから異なる属性でコホート(集団)を形成し、一定期間で発生した相違点などを調査します。たとえば、ある疾患の発症者と非発症者の過去のデータを比較し、特定のリスク因子や要因が疾患の発症と関連しているかを調査するケースがあります。
コホートとは古代ローマの歩兵隊の1単位を指す英語です。共通因子を持った集合体という意味も持つことから、共通因子を持つ集団を利用する研究が「コホート研究」と呼ばれるようになったといわれています。
コホート研究が重要視されるようになった理由
では、コホート研究は、なぜ重要視されるようになったのでしょうか。
大きく、下記のような理由があります。
因果関係の理解
コホート研究は、特定の要因が将来の結果にどのような影響を与えるかを理解するために利用されます。長期間にわたり対象者のデータを収集することで、因果関係を特定するのに有益な情報が取得できます。
疾患のリスク因子特定
特定の疾患や健康の問題に対するリスク因子を明らかにするのに役立ちます。たとえば、特定のコホートでの喫煙と肺がん発症の関連性を調査することで、喫煙が肺がんのリスク因子であることを明らかにすることができる可能性があります。
治療法の評価
コホート研究は、特定の治療法が症状の改善に与える影響を評価するのにも役立ちます。たとえば、ある治療法が特定の疾患の進行を遅らせるかどうかを追跡することが可能です。
長期的な影響の追跡
コホート研究は、出生から老年までの広範な期間にわたってデータを収集することもできるため、長期的な影響や変化を追跡することが可能です。
これらの理由から、コホート研究は公衆衛生や医学研究において非常に重要視されており、さまざまな疾病に関するリスク要因などを特定するのに活用されています。
コホート研究の活用例
コホート研究は、どのような場面で活用されているのでしょうか。これまでの代表的な研究例が、下記のようになります。
・喫煙、食事、運動などの生活習慣とがんの発生リスクの関連性について
・高血圧と循環器疾患の関連性や、食事療法が高血圧を予防する可能性について
・慢性腎臓病と生活習慣等の危険因子の関連性について など
有名な事例としては、国立がん研究センターの「多目的コホート研究」 があります。
がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などの疾患の発生には、食習慣・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣が深く関わっていると考えられています。しかし、どのような食事をどの程度とればよいのか、飲酒はどの程度が適量であるか、といった具体的な生活習慣のデータは、示せていませんでした。
そこで20年以上にわたり、全国10カ所以上の地域から合計14万人に、生活習慣や健康に関する情報収集と定期的な血液検査に協力してもらい、どのような生活習慣を持つ人が、がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などになりやすいのか、あるいはなりにくいのかの研究を実施しました。
この研究からは、生活習慣や環境要因などから、特定の疾患の発症リスクや予防因子、治療効果などを詳細に調査し、因果関係が見出せたのです。
それでは国立がん研究センターの「多目的コホート研究」で、どのようなことがわかったのか紹介しましょう。
喫煙とがんの関連性
まずは、喫煙とがん発症の関連性についてです。
喫煙者が何らかのがんになるリスクは、非喫煙者の 1.6 倍(男性)と 1.5 倍(女性)という結果が得られました。がんの種類別に見ると、肺がんが非喫煙者の 4.5 倍(男性)と 4.2 倍(女性)、男性の食道がんが3.7 倍、女性の乳がん(閉経前)が3.9 倍と報告されました。
飲酒とがん・脳卒中の関連性
続いて、飲酒とがん・脳卒中の関連性についてです。
1日に日本酒換算で3合以上の飲酒習慣がある男性は、ときどき飲む(1日1合未満)グループに比べて全てのがんリスクが 1.6 倍、脳卒中のリスクも 1.6倍になることが分かりました。また、全く飲まない男性に比べて、毎日2合以上の飲酒習慣のある男性では、食道がんリスクが 4.6 倍、大腸がんリスクが 2.1 倍になりました。さらに毎日1合以上の飲酒習慣では、進行前立腺がんリスクが 1.5 倍に、女性では乳がんリスクが 1.8 倍になることも明らかになりました。
身体活動と疾患の発症リスクの関連性について
喫煙や飲酒ではリスクが高まる要因となりましたが、運動などの身体活動は疾患の発症リスクを軽減させるのでしょうか。
この研究では、肉体労働や激しいスポーツをする時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、その他睡眠等の時間に関する調査を行いました。それらの活動時間に対して強度指数を掛け合わせたスコアと飲酒・喫煙の有無や糖尿病の有無、BMI(肥満指数)値なども加味して4つにグルーピングして調査しました。
すると、最も身体活動量の大きいグループは、最も身体活動が小さいグループに対して死亡リスクは0.73倍(男性)、0.61倍(女性)でした。がん発生のリスクに関しても、最も身体活動量の大きいグループは、最も身体活動が小さいグループに対して0.87 倍(男性)、0.84 倍(女性)でした。そのリスク減少の傾向は、男性よりも女性ではっきりとみられます。さらに年齢別の高齢グループや余暇の運動頻度が高いグループでよりはっきりと減少傾向がみられています。
出典:多目的コホート 研究の成果 国立研究開発法人 国立がんセンター 多目的コホート研究 中央研究事務局
予防医学のための「ゲノムコホート」とは
近年は、上記のような生活習慣、健康に関する情報や血液検査などの情報を用いるコホート研究に、さらに遺伝子情報も加えた「ゲノムコホート」と呼ばれるコホート研究が実施されています。
「ゲノムコホート」は、参加者の遺伝子の型でグルーピングしたコホート研究により、疾患の発症と遺伝子の型の関係について調べるものです。
2003年、日米英をはじめとする6か国で構成する国際的なコンソーシアムで、ヒトの遺伝子をすべて解読完了するという、いわゆる「ヒトゲノム解読完了宣言」が行われました。その後2005年頃から、長期の大規模ゲノムコホートが開始され、日本でも名古屋大学で10万人規模の住民を対象とした大規模ゲノムコホートが実施されるようになりました。
ゲノムコホート研究の目的の一つは、予防医学です。
前述の国立がん研究センターの「多目的コホート研究」の事例では、生活習慣でのグルーピングで疾患の発症リスクを調査していますが、これを遺伝子の型でグルーピングするというものです。
ゲノムコホートでは、同じ遺伝子の型を持った人でも、生活習慣をどのように改善すれば、特定の疾患の発症リスクを軽減できるかがわかるようになってきます。たとえば、ある疾患の発症リスクが高い場合に、食事療法で対策したほうが効果が高いのか、運動療法で対策したほうが効果が高いのかといった判断を、遺伝子の型でできるようになる可能性があるのです。
これまでの疾患対策に、遺伝子レベルの情報を加えることで、より効果的な方法を個人ごとに選択して行えるようになるということです。
国内におけるNTTグループの大規模企業コホートデータ
このように近年では、遺伝子に関するコホートも重要視されるようになってきました。
NTTグループでも、グループ社員の人間ドック受診時に、本人からの同意取得を前提として遺伝子検査を実施した大規模コホートデータを有しています。※遺伝子検査同意取得率は約8割
2023年10月時点で約7.5万人を超える遺伝子検査受検者数を誇る、国内における大規模企業コホートとなっています。共同研究者である東京大学からは、量だけでなく、本コホートに登録されている一人一人のデータが長期的かつ欠損が非常に少ない状態で収集されているという点において、質的にも研究価値が非常に高いという評価を受けています。
この「NTTグループの大規模企業コホートデータ」は、どのように活用できるのでしょうか。
たとえば、「肥満」相対リスクによる層別化からみる20年間におよぶBMIの経年変化を、下記のように分析しています。
「肥満」相対リスクによる層別化からみる20年間におよぶBMIの経年変化
【分析条件】
25歳時にBMI18.5~25.0の被験者を対象に、遺伝子検査結果から「肥満」に対する相対リスク上位5%を高リスク群、下位5%を低リスク群に分類し、30歳からのBMIの経年変化を分析。
【結果】
高リスク群において30~35歳の間、45歳~50歳の間で、BMIの非正常割合が大幅に増える傾向にあると判明。
【結果を活用した施策の検討】
本結果とさまざまな情報を組み合わせることで、疾患に対する前駆症状を捉えることができる可能性がある。従業員の年代ごとの業務やイベントを組み合わせることで、若年層からの年代ごとのヘルスリテラシー向上を促し、健康増進とWell-beingの実現に向けた取り組みを行う。
今後、法制度などを確認したうえで、本コホートを活用したサービス提供方法を検討していきます。また、医療費の情報であるレセプト(診療報酬明細書)の追加も視野に入れています。医療関係のみならず、薬学・食品・化粧品などを取り扱う企業さま、および大学のような各種研究機関からもお問い合わせをいただいており、R&Dやマーケティングにも活用できるものと考えています。
NTTグループの大規模コホートデータを活用した取り組みにご興味ある方は以下よりお気軽に問い合わせください
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」
また当社では、上記の大規模コホートデータのベースとなる遺伝子検査を事業化し、さまざまな企業さまへご提供しています。
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock ®」は、健康診断や人間ドックで得られる「今の健康状態」に加え、「将来の疾患の発症リスク」や、「自分の体質」について知るための検査です。がんや認知症をはじめとした、約90の疾患や体質が分析できます。
多くの疾患は「遺伝要因」よりも生活習慣などの「環境要因」が大きく影響しているといわれているため、当社では検査結果とともに生活習慣改善のアドバイスを提供しています。
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の検査結果レポート例
このような生活習慣改善のアドバイスにより、当社検査を実施した人の約60%が受診をきっかけに「行動を変えようと思うようになった」、半数の方が「バイタルデータを意識するようになった」と回答しています。
「遺伝子検査」により各種疾病の発症リスクを把握して、正しい予防対策を行うことができるようになってきているのです。ぜひ、さまざまな疾病のリスクがどの程度あるのか、そのリスクへの対策はどのような方法があるのか、確認してみてはいかがでしょうか。
当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の詳細はこちらをご覧ください。
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